4話 : 実は俺

最近になってTwitterをよく見るようになった。



同窓会や飲み会、合コン…この春先から急に出会いや再会があって世界が広がったので
こうして出会った人々の日常が一度にざっと目を通すことができるTwitterはとても便利なのだ。


アカウントは随分前に取得していたのだが、今になってようやくその便利さがわかった。


通勤時間にお気に入りの女の子のツイートにちょっとしたリプライを飛ばしておくと
会うことなく好印象を与えることができるのも良い。




先日の同窓会のメンツともアカウントを持っている奴とはもちろんお互いにフォローし合う関係となった。

Twitterの面白いところは短文にその人の人間性が現れるところだと思う。



先日のたかしのツイートには笑ってしまった。




LV99の社畜@takashi   
 
「 気がついたら冷蔵庫からっぽ。御飯に焼肉のタレかけて晩飯終了だチキショーうめぇよコレ 」



相変わらず忙しい日々を送っているらしい。

普段はどちらかというと無愛想で無口な隆史がTwitterでは妙に饒舌だった。
短い中にもセンスのいい言葉を選んでつぶやいているのがわかる。



そんなわけで、今日も昼休みの合間に軽くTwitterを覗いているところだ。




みゆき@miyuckyxxxheart  

「今日のランチは先輩と代官山フレンチー!ちょっと高いけどお店可愛いし、美味しいからリピするー!
誰か今度一緒行こー!ヽ(*´∀`)ノ」



LV99の社畜@takashi    

「むくり。今日は半休だったのに今起きた。出勤辛ァ」



Y氏@yamashitadeshu
「昼休みに嫁から息子の画像キタ━(゚∀゚)━!保存保存。」










今日も知人達は元気そうだ。

みゆきちゃんのツイートにはすかさずリプライしておいた。

すると早くも  ==  新規ツイート 3件 == の文字が表示された。

みんな昼休みだからよく利用しているのだろう。


何気なく更新ボタンを押した。


1件は俺がみゆきちゃんに送ったリプライ。

そして後の2件は隆史だった。





LV99の社畜@takashi  

「今朝も枕に抜け毛いっぱーーーーーーい」





LV99の社畜@takashi  

「もうだめだ・・・もう認める。 おれハゲてるわ。\(^o^)/  」






( \(^o^)/ ・・・・・ は ? )



隆史が禿げている ?




思わず画面を二度見したら、見間違いではないことがよくわかった。



そういえばこのところ会うときは常にニット帽をかぶっていた。
忙しくて髪型を気にする暇もないためだと思っていたのだが、
あれはもしかして薄毛を気にしてのものだったのだろうか…



(わ、笑えない・・・全然笑えないぞ隆史・・・だって俺たちまだ20代なんだぜ?!)



男なら、誰もが将来ハゲるのではないかという不安と多かれ少なかれ戦いながら歳を取る。

それは女性が顔にシミやシワができるのを恐るように、薄毛は男に共通する悩みだと思う。



だけど、20代のうちはあくまでも不安は不安であって、悩みにまで至ることは無い。

そう思っていた。



LV99の社畜@takashi  

「 俺のシャンプー5000円もするんだけどな。早めにスカルプケアすれば大丈夫って言ったの誰だよ。つーか遅刻するヤベ」



ただの良い子@s.tadayoshi   

「残業しすぎ、食生活偏りすぎ、疲れすぎ、睡眠不足。隆史の場合はさすがの高級シャンプーでも癒せないダメージを負い続けたんだよ。
開き直ることをおすすめする。@takashi 俺のシャンプー5000円もするんだけどな。早めにスカルプケアすれば大丈夫って言ったの誰だよ。つーか遅刻するヤベ」




忠義からの厳しいリプライが入った。


突然のカミングアウトに固まってしまった俺をおきざりにタイムラインは流れていく。




先日の同窓会で話に上がったまーくんといい、隆史といい、
最近周りに薄毛脱毛の話題が集中している気がする。


しかも、ついにスカルプケアという仰々しい言葉まで出てきた。

(そんなケア、もうやらなきゃいけないのか…?)





タイムラインはなおも流れて俺に時間を告げた。




Y氏@yamashitadeshu
「子供の写真みてパワー充電完了ーー!さて午後からも頑張るぞ。と。┌(┌^o^)┐」




昼休みが終わりつつある。

そろそろデスクに戻らねばならない。

俺のデスクの斜め左には百地さんのデスクがある。





百地さんもまたM字ハゲを患っている。





ベンチから立ち上がると軽いめまいがした。
日差しが暑い。






フロアへの階段を降りながら、俺は得体の知れない不安に苛まれていた。

<続く>

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