18話 : 上司

例の一件があってから、職場での俺を取り巻く空気は散々なものだった。



当事者の先輩はまだ怒りが冷めやらぬといった状態で、
未だに社内で顔を合わすと憤怒の表情でにらみつけてくる。

そんな中、俺にわざわざ話しかけてくる人間がいるはずもない。

できるだけ空気のような存在になれるよう心掛ける毎日だった。


しかし、あながちそれが辛い状況というわけでもなかった。

俺の精神状態を考えるとそれはそれで意外と楽なのだ。


美幸ちゃんにふられてからというもの、しばらく誰とも関わりたくない心境にあったからだ。




薄毛の進行も悪化の一途をたどっていた。
そろそろ前髪で隠すのも精一杯だった。


「ハゲも伝染するものなのだろうか…」

毎日、数少ない仕事をこなしながらそんなくだらないことを考えていた。


俺には幸い後輩というものはいないし、同僚とも話すことなく仕事ができる。

唯一、日々の報告でやり取りをする必要がある上司も無口な性格なので、余計な無理をする必要が無かった。




上司の百地さんは常に俺たちに対面する位置に座っていた。

一日会社に来ない日もあれば、昼から出勤したり、はたまた昼には退社することもある。

社長からの信頼はかなり厚い様子だったが、その業務内容はまったく知らされていなかった。



しかし、そんな百地さんの業務について思わぬ形で公表されることとなった。




ある日の夕方、俺はいつも通りその日の数少ない業務をできるだけ完璧に、問題なく締めくくろうとしていた。

残業はすでに俺とだけ無関係なところにあった。


俺が上司に提出するデータを完成させ、保存したその時、

斜めとなりで ガン! と大きな音がした。

チェアが倒れて、冷たい床に衝突した音だと気が付いたのは数秒経ってからだ。


「百地さん!」


同僚の叫び声でただ事でないことが分かった。

倒れたのはチェアだけではない、百地さん本人が椅子ごと床に倒れていたのだ。

そこには青白い顔をした百地さんが小さなうめき声を上げていた。



「大丈夫ですか?!百地さん!おい、救急車!!!」

「だれかきて!」

「待て!むやみに動かしちゃいかんぞ!!」



社内は騒然となった。

救急車はすぐに到着し、みんなが見守る中、百地さんは運ばれていった。



翌日、百地さんのさらに上の上司に同課の全員が呼ばれ、百地さんの状態が告げられた。


すでに順調に回復していること、少しの休養期間を経て確実に復帰することが決まっていると聞いて、全員がホッとした。


その後、上司の口から百地さんのプライベートな状況について、ごく遠まわしに報告があった。



家で両親の介護をしていること、
奥さんは体が弱く入退院を繰り返していること、



百地さんの業績によって会社が成り立っているということ。




そして最後に上司は、百地さんが休養から戻るまでの間、同課の全員が一丸となって
百地さんの顧客を担当し、業績を落とすことがないように、と告げた。



会議の後、メールで全員に配信された百地さんの顧客情報は想像をはるかに超えた件数だった。



その仕事量とプライベートの状況を考えれば、百地さんが倒れたのは過労であることにほぼ間違いはなかった。

だからこそ、普段は顔も見せないような上司がわざわざ出向いて説明に来たのだろう。



それから、百地さんが復帰するまでの2週間は嵐のような毎日だった。





顧客1件1件への説明、現状把握、そして営業。



空気のような存在だった俺は、そんな嵐の中、瞬く間に同僚たちと和解していくことができた。


また、心境の変化もあった。

百地さんの仕事に向き合うことで、俺よりも辛い状況でありながら、それでも同じ土俵で、
俺以上の成果を出し続けていた人がいることに気づくことができたのだ。


それはきっと同課の仲間も同じだったのだと思う。




ただ自分の世話さえしていればいい俺と、

家族のことを一手に担っている百地さん。





ただ、がむしゃらになりふり構わず頑張った2週間はあっという間に過ぎた。

やっと状況に余裕ができ始めたころ、百地さんが復帰した。


ある日出勤したら、何事もなかったかのようにデスクに座っていたのだ。



俺「お、おはようございます・・・・大丈夫なんですか?」

百地「おはよう。色々ありがとうな。」




百地さんは出勤してくる同課のみんなに短くありがとうと言った。


俺はPCを起動しながら、久しぶりに気分が明るく晴れていくのを感じていた。





<続く>

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